質的研究について

この人によりそい、社会と対峙する日本語教育研究会は、移住者の方のお話を聞くところから始まりました。そこで、ここでは、お話を伺うときの方法について書きます。

 

移住者の方にお話を伺うとき、私は「質的研究」という方法を用いています。最近は、日本語教育においても「質的研究」という言葉を聞くことが多くなりました。

 

「質的研究」というと、〇〇研究方法、あるいは〇〇分析法、といった研究の方法や分析の手順を思い浮かべる方が多いかと思います。ですが、「質的研究」を行うとき、もう一つ示さなければならないこととして、「どのような立場から世界を明らかにするか」ということがあります。「私はこういう立ち位置から研究を行う」と明示することです。

 

では、どのような立場でしょうか。


研究方法について

たとえば、研究の例をご紹介しましょう。これは「2016年度日本語教育学会教師研修」において使用したスライドの一部を修正したものです。 

 

ラーメンについて研究をするとします。

どのような研究方法があるでしょうか。


ラーメンは好きですか? 

あなたにとってのラーメンとは?



「ラーメンは好きですか?」

 

左側の質問を、仮に東京で100人に聞いたとします。「はい」と「いいえ」と答えた人の人数を数え、割合を出します。その結果、東京の〇〇%の人が「ラーメンが好き」、〇〇%の人は「ラーメンが嫌い」という結果が導き出されます。

 

同様に、札幌や博多で聞くこともできるでしょう。あるいは醤油、塩、味噌など、味の好みについて聞いてもいいでしょう。これはどのぐらいの人が、どんなラーメンが好きかということを知りたいという研究です。

 

「あなたにとってラーメンとは?」

 

右側の質問の答えは、人によってさまざまで、おそらく数を数えたり、割合を出したりすることはできないでしょう。

なぜなら、この質問は、「その人にとってのラーメンの意味」を聞く質問だからです。

 

私が行っている質的研究は、単純化すれば、この「あなたにとってラーメンとは?」のような問いを立てる研究です。

 

誰かが泣いたときに「泣いた」という事実だけを見るのではなく「悲しくて泣いたのか」、「うれしくて泣いたのか」を問い、泣いた人間を理解していくという研究方法です。

 

人数を数え、割合を出し、一般化して傾向を見るという立場からの研究ではなく、誰かが泣いたときに、その意味や経験から人間を見ていく研究です。 


詳しく知りたい方へ

八木真奈美


 

2018

「移住者の語りに見られる「経験の移動」が示唆するものーAgencyの観点から」

『移動とことば」くろしお出版 PP.171-189


 

2016

「質的研究における研究者とは何者か」

2016年度日本語教育学会春季大会予稿集パネルセッション『質的研究方法の再検討』

「研究者」はどのような存在かについて考えてみました。次の4つの点:①研究者とは何者か、②質的研究に潜む妖怪とは、③研究者はいかなる存在か、④自己と他者をどう記述するか、について考察しました。また、実証主義的研究と社会構成主義的研究のアプローチの違いについても述べました。


2015a

質的研究の認識論-言葉を使う人間とその世界を理解するために」

「日本語教育のための質的研究入門」ココ出版 pp.27-48

質的研究の認識論と、問題になる妥当性について書きました。次の4つの点:①言語への関心から人間への関心へ、②パラダイムと研究方法、③良い研究とは、④「人間への関心」の未来、について考察しました。最後のチェックリストを参考に、ご自身の研究のチェックを行っていただきければと思います。


2015b

「ナラティブとの融合が示すエスノグラフィーの展開」『日本語教育』162号pp.50-65

 

なぜ、質的研究が必要か、そしてエスノグラフィーとナラティブの融合という質的研究の発展について書きました。次の4つの点:①エスノグラフィー、②ナラティヴ、③ナラティヴからみるエスノグラフィー、④質的研究方法が,日本語教育研究に果たす役割について考察しました。


2013

「人によりそい、社会と対峙する日本語教育―移住者のエスノグラフィーから見えるもの―」早稲田大学出版部 

 

2編のマイクロエスノグラフィーを載せています。残部がありますので、ご希望の方はお問い合わせください。